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第80回(2012年)
ベテラン谷口が完全優勝、日本プロ2勝目

1年越しの2連覇だよと、しっかり優勝杯を手中に収めた
第80回日本プロゴルフ選手権大会日清カップヌードル杯は、4日間通じて首位をキープした谷口徹が通算4アンダー284で、2010年に続き2度目の日本プロチャンピオンに輝いた。メジャーの優勝は4度目。最後まで接戦を繰り広げた深堀圭一郎が1打差の2位。
第1ラウンド

気負いなくプレーをしていて時折笑顔も見せる谷原
日本最古のメジャー、第80回日本プロゴルフ選手権大会日清カップヌードル杯は、23年ぶりの烏山城CCを舞台に10日開幕。初日は雷雲接近による1時間43分間の競技中断があり、14組42人がホールアウトできず午後6時34分にサスペンデッドとなった。ホールアウトした中では、谷口徹が4つのパー5をすべてバーディーとする7バーディー、ノーボギーの65、完璧なゴルフで暫定1位にたっている。1打差の6アンダー、66で、昨年のアジアンツアーの賞金王ジュビック・パグンサン(比国=33)が2位。谷原秀人が7バーディー、2ボギーの5アンダー、67で3位につけている。さらに1打差の4アンダー、68で今野康晴が4位。3アンダー、69の5位タイには矢野東ら4人が続いている。池田勇太はノーバーディーの4オーバー、76で82位タイと出遅れた。サスペンデッド組では手嶋多一が4ホールを残して5アンダー。石川遼は1ホール残して1バーディー、3ボギーの2オーバーと苦しいスタート。尾崎将司はスタートの10番で2打を打ったあと腰痛のため棄権した。2日目は午前6時40分から競技を再開する。
〔この日は、前日までの悪天候によるコースコンディション不良のため、スルーザグリーンでボールを拾い上げて拭き、ホールに近づかない1スコアカードレングス内(約10インチ)にプレスできる“プリファードライ”の特別ローカルルールが採用された〕
◇ ◇ ◇
左肩を痛めて昨年はパーオン率103位(57.25)と苦しんだ谷原が、今季は復活の年、と頑張っている。「開幕直前になって痛みが消えた」(谷原)そうだが、開幕から3試合、全てトップテン内。この日もパー5の1番で1メートルにつけてバーディー発進。3番では20ヤードをPSでチップインすると4、5番とパットがさえて3連続バーディーと勢いをつけた。中盤で2つボギーが出たが、11番(182ヤード、パー3)で1.5メートルにつけてバーディー。13、14番とまた連続でとって5アンダーまで伸ばした。フェアウェイ、ラフを通じてボールを拾って拭けるプリファードライにも助けられた。
「ラフでもボールを拭けるのは初めてなんじゃない?埋まるところもあるし、この特別ルールのおかげで助かった部分もあるね。でも、アイアンのショットがよかったのが一番。開幕からずっと一緒だね。左肩の痛みを感じなくなったのは大きいね。去年までは、痛くないところで止めたりしていたので、肩(腕)の上がり方が全然違った。飛距離もだいぶ戻ってきたし…。去年までは痛みをこらえて、ただゴルフをやっているだけという感じだった」
さかのぼると、すでに2年半くらい前から肩に異常を感じて苦しいゴルフが続いていた。その間、病院通いも。「お年寄りがやるようなリハビリもした。息を深く吸う呼吸法で、動きが悪かった肋骨を動かすような訓練もした。そういうことが肩の痛みに関連していたらしい」ともいう。
ツアーは9勝。05年には1年だけだったが、米ツアー参戦も経験した。06年には2勝して賞金ランク2位。全英オープンでは5位と奮闘して、お茶の間のゴルフファンを湧かしもした。07年、08年も2勝ずつしてトッププロの地位を固めていたが、思わぬ左肩の故障で苦しい3年間だった。今季の開幕からの好調は、それだけに嬉しい日々だ。
飛ばし屋で鳴らしたかつての谷原。33歳になって1児(8ヵ月の男の子)のパパにもなった。最後の勝利は、2010年のVanaH杯KBCオーガスタ。9勝のなかにはメジャーがない。「そうですね。(メジャーを)とりたいのはやまやまなんだけど、あと3日、丁寧にプレーできればね」
今季、早い時期で復活Vを勝ち取れれば、谷原の本格復活はスピードを増すだろう。
第2ラウンド

パー5では全てバーディと、谷口は確実なプレースタイル
国内今季初のメジャー、日本プロ日清杯2日目は、初日サスペンデッドとなった42人が午前6時40分から競技を再開。同7時30分から第2ラウンドを行った。初日単独首位から出た谷口徹が、6バーディー、4ボギーの70で回り、通算9アンダーとして首位を堅持した。ボギーなしで66のベストスコアを出した深堀圭一郎が通算6アンダーで2位に浮上。谷昭範、平本穏、白佳和が通算5アンダーで3位タイ。前日3位の谷原秀人は一つスコアを落とし4アンダー、6位タイに後退した。初日118位タイと出遅れた池田勇太は、69と3つスコアを伸ばし、通算1オーバー、50位タイで辛うじて予選を通過した。通算1オーバー、50位タイまでの62人が決勝ラウンドに進んだが、石川遼は2バーディー、3ボギーの73、通算3オーバー、72位タイで予選落ち。昨年9月のANAオープン以来、プロ通算18回目の予選落ちとなった。日本プロは5回出場して予選通過は1回(昨年)だけと相性が悪い。ツアールーキーの川村昌弘が、18歳10ヵ月16日で通算1アンダー、26位タイで予選を通過、PGAのオフィシャルガイドブックができた1978年度以降では日本プロの最年少予選通過者となった。
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5月にしては冷たい北風が吹きぬけるコース。アンジュレーションの強い難解なグリーン。44歳の谷口徹は“自分のリズム”を崩しながらも2つ伸ばすしたたかなゴルフで首位を守った。1、2番を連続バーディーで出たのに途中3つのボギー。おまけに最終18番では、第2打約130ヤードの上り受けグリーンへのアプローチを、グリーン手前のスロープにショート。ピンまで10メートル弱の寄せを3メートルオーバー。これを外して4つ目のボギーでホールアウトしたから、なお後味が悪かった。
「最後(手前のピンだったが)奥でもいいと思って打っているのに、PWでショートや。ショットが緩んでる。アマチュアでも乗る距離をあんなミスするんやから、論外や。あんなミスはしたくない。嫌気がさすショットばかりやった」と手厳しく自分を責めた。
4つのボギーはあったが、4つのパー5は全てバーディー。2日間計8個のパー5は全てバーディーで、9アンダーのうちロングホールだけで8アンダーをかせいだ。しかし、その他のホールでバーディーが取れてないのが「最悪の多いゴルフ」(谷口)なのだ。
「風もきのうとそんなに変わってないし、あまり関係ない。ドライバーもあまりよくない感じがするんで軽く打っているけど、調子はよくない。アイアンも逆だま(狙った方向と逆の方向へいく球)が出たり、ショットのイメージが悪い。それがボギーにつながってる。もう少し自分のイメージになったら、攻められるし、もっといいスコアも出る…。曲がるというより、思うように振れてないのが嫌なんや。バーディーのホールはいい感じで、あれが普通。ダメなのが悪いイメージ」と、首位を守りながらこのベテランは、あくまでも自分にシビアだ。
2年前の日本プロ覇者。連覇を狙った昨年は、首位に2打差と迫っていた3日目、1番ホールで突然の腰痛に襲われて痛恨の棄権をした。「去年は河井(博大)に大きなプレゼントをあげたからね。4日間やって負けたわけじゃないから」と、その悔しさはいまも忘れない。初日7アンダー、2日目は2アンダーとスコアは伸ばしているのに「きょうは自分の中ではアンダーパーで回った気がしない。ミスショットが多すぎてがっかりした。悪いイメージを修正しないと、戦っていくのによくないね」と、最後まで反省また反省のコメント。
あと2日間、首位を守り通せば、ツアー通算18回目の優勝で「25勝」の永久シード権獲得へ“あと7勝”と最短距離にいるプレーヤーだ。昨年の悔しさを晴らすためにも、しぶとい谷口がこのチャンスを逃がすだろうか!?
第3ラウンド

自分のプランはとにかくパー狙いでチャンスを待つことと信じた
今季初のメジャー、日本プロ日清カップ3日目は、5月とは思えない冷たい北風の吹く厳しいコンディションの中で行われた。この日、アンダーパーで回ったのは僅か3人。首位で出た谷口徹も2バーディー、6ボギーの76。通算5アンダーと4つもスコアを落としながら、まだ2打差で単独首位を守り、完全優勝へ“王手”をかけた。ベストスコア70の小田孔明と、71のI・J・ジャン(韓国)が、通算3アンダーとして2位タイに浮上。谷原秀人、深堀圭一郎が通算2アンダーで首位に3打差の4位タイとしぶとく“圏内”にとどまっている。前日最下位で予選を通過したホストプロの池田勇太は、3つスコアを落としたが、ディフェンディング・チャンピオンの河井博大らとともに通算4オーバーで32位タイに上がった。
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厳しい首位争いを象徴するような最終18番ホール。グリーン左手前には池。右手中ほどには、今大会用に新設されたクロスバンカーが待っている。「最後は体が冷え切って感覚がおかしかった」(谷口)というティーショットは、右にそれて土手のスロープに落ちた。グリーン方向には左右に2本の立ち木。つま先上がりのライ。フックが怖いセカンドショットだったが「(乗せるより)グリーン左のバンカーでいいと思ったけど、もっとフックした。木があって思うようなフォローがとれなかった」。
ボールはグリーン左バンカーより手前のラフへ。つま先下がりで約30ヤード。2段グリーン上段のピンへのアプローチは、また至難のショットだったが、ふわっと上がったロブでピン左1.5メートルに寄せた技はさすがだった。
「つま先下がりだったし難しかったが、自分を信じた柔らかいロブが寄ってくれた」
1.5メールのパーパットを慎重に決めた谷口は、右手のこぶしを握りしめるガッツポーズで、タフだった1日を締めくくった。
冷たい北風。硬く締まってスピードを増したグリーン。2日間首位は守ってきたが、この日ばかりは「パー狙いのプランを立てた」谷口。1番のパー5ではバーディースタートしたものの、そのあとは「思った以上にグリーンが硬く、風のジャッジも難しかった」と、苦戦続きで6個のボギーがきた。一時は、迫ってきた深堀圭一郎に並ばれ、9ホールを終わったころは、2打差の2位にまで落ちた。「でも苦しいのは自分だけじゃない。みんなが難しい。自分のプランを守ってチャンスを待てばいい―」。
信じた通り、後半になって深堀がスコアを崩し、16番(パー3)では「思ったとおりのフック。千金だった」という5メートル、この日2個目のバーディーパットが決まって、谷口が再びよみがえった。
「きのうまで自分のイメージが悪かったが、きょうはターゲットを絞って、そこへ打つことに集中した。それなりにできた。スコアは悪いけど自分なりのゴルフで最低限のものはできてリーダーを守れたから、きのうよりは楽しかった。あすは2打差はあるけど、やはりそうバーディーは出ないと思う。チャンスを生かせるかどうか。気を緩めるヒマはないよ」。
最終日は、プロ通算18勝目へ、ピタリ標準を定めたいぶし銀・谷口の、執念のみせどころだろう。
最終ラウンド

上位でプレーを続け、テンションを上げることが大事と谷口
第80回の日本プロ日清カップは44歳のベテラン谷口徹が、4日間とも首位を守り抜き、通算4アンダー、284で完全優勝した。一昨年に続き2度目の“プロ日本一”に輝いた谷口は、昨年10月のブリヂストンオープン以来の通算18勝目。メジャーは4度目のV。「25勝」の永久シード権まで“あと7勝”となった。2打差の5アンダーで出た谷口は前半2ボギーが先行、6番では追い上げてきた薗田俊輔に並ばれる苦戦だったが、8番で6メートルのフックラインを入れたバーディーで立ち直り、残りホールはすべてパーで凌いで逃げ切った。深堀圭一郎が、71で回って通算3アンダーとし、1打差の2位に入った。連日の冷たい北風と、厳しいコース設計でアンダーパーはこの2人だけ。ホストプロの池田勇太は、70で回り通算2オーバーで6位タイ。前年優勝の河井博大は5オーバー、25位タイに終わった。
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4日間の完全優勝といっても、谷口にもそう楽ではなかった。最終日も、途中若い薗田に追われ、終盤は深堀のしぶとい粘り腰に息が抜けなかった。リードは1打で迎えた最終18番。第1打が左の池がヒヤリとした左セミラフ。2段グリーン左下のピンへは118ヤードのセカンド。
「PWでうまく打てたので(バックスピンで)返ってくるかと思ったのに、僅かに芝をかんでいて上の段まで転がってしまった」
ボールは上の段、ピンから16メートルものところに駆け上がった。くだりのロングパットは難しい。ラインを何度もチェックした谷口のパットは、スルスルと緩く転がり落ちて、何とカップ50センチもないところで止まった。18番グリーンを取り巻いた大勢のギャラリーから異様などよめきと拍手の渦の中で、谷口は2度3度と右手こぶしを握りしめるガッツポーズ。会心のウインニングパットだった。
「きのうの夕方、あれと同じあたりから競技委員がボールを転がしているのを見てたんだよ。だから“このくらいかな”というスピード感が分かっていた。2パットではいける自信はあった」
谷口は、なんでもなかったようにその場面を振り返った。ラウンドが終わったあとも、競技委員のちょっとした動作を見落とさない目。プレーぶりがしぶといだけでなく、このベテランにはそんな細心の注意力があったのだ。
3日目を終えてからたてた最終日のプランは「フェアウェイキープを最優先にして、少なくてもチャンスがあればとりにいく」というもの。それに徹した谷口だったが、2番では3パット。6番でもまずいプレーで2ボギー。
「変な球ばっかり出て、スコアはよくても自分の中では調子はずっと悪かった。(手がうまく動かない)イップス病かと思っていたほどで嫌だった。この春は宮崎に40日もこもって練習をしたのに、この結果では、練習のやり過ぎかな、“練習は期待を裏切るのか!”と思ったりした」
その苦しみから脱したのは「難しい8番で横6メートルのフックラインが入った初バーディーで気分が変わったとき」という。「コンパクトにしっかり打とう」という思いが頭に浮かび、それを実行し始めたらショットが見違えるように安定してきた。フェアウェイキープが楽になって「神経を使わなくなった」そうだ。勝負をかけた17番(パー5)は、今週はずっと通してきた成功してきた“3オン勝負”に徹して完璧な3打目を打ったのに「17番(グリーン)だけが意外に軟らかくて、バックスピンがかかり過ぎた」と、パーに終わった。しかし、気持ちの上では余裕をもって臨んだ最終18番だった。突然の腰痛で3日目に棄権した昨年の大会のリベンジも果たしたが「雪辱? 去年はほとんど欠場みたいなもんだから、1年越しの2連覇だよ」と笑わせた。
これで国内メジャーは4勝。今年も21日に行われる全米オープンのアジア予選(レイク浜松CC)にもエントリーした。「ヒメネスが頑張ってるからオレもまだやってみるよ」と笑う谷口だが、44歳にしてまだまだ闘志は健在。国内では通算18勝で、永久シード権にも“あと7勝”と近づいてきたが「上にいるから頑張れるんだ。今週だって下の方にいたらこうはいかないよ。上にいるからテンションが上がるからこれが大事。藤田(寛之)に“もうお前はムリだからオレに勝ちを譲れ”と言っといた」と、永久シードにも執念をみせる“本音の男”谷口が、今年も燃え始めた。