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第86回(2018年)
プレーオフを制した谷口徹が、6年ぶりの優勝に感涙!

日本プロゴルフ選手権3勝目を飾った谷口徹
2018年の「第86回日本プロゴルフ選手権大会」は、房総カントリークラブ房総ゴルフ場・東コースで開催され、ベテランの谷口徹が、トータル6アンダーで並んだ藤本佳則とのプレーオフを制し、6年ぶりとなるツアー通算20勝目をマーク。日本プロゴルフ選手権は通算3勝となり、50歳92日での日本プロ優勝は、96年尾崎将司の49歳109日を上回る大会最年長Vとなった。
第1ラウンド

得意の初日!午前組ではトップだった中島は5アンダー3位
大会開催前週は米国マウイ島のカアナパリGCロイヤルコースで行われた全米オープン一次予選会に挑んだ。自身3年連続の挑戦だったが、今年は初めて予選落ちを喫した。上位2名が駒を進められる狭き門。世界メジャーへの扉を開けなかった悔しさを胸に、中島徹は大会開催週の火曜日に帰国し、水曜日に練習ラウンドを行った。時差ボケやコースチェック不足は否めないだろうが、大会初日は1イーグル・4バーディー・1ボギー67の好スコアをマークし、午前スタート組の選手の中ではトップに立った。
2017年は初シード入りに近づいたが、結局は150万円強及ばずシード権獲得を逃している。今季のツアー優先出場順位は20位。ツアー前半戦はほぼ出場できる順位は得た。
「ショット精度やショットイメージの出し方の未熟さといった技術面、自分のゴルフのためにとしか思えなかった精神面の弱さがシード獲得に至らなかった要因だと思います。自分のためという欲ではなく、他人のため、応援してくれる方々のためにプレーしたなら、それがパワーに変わるはずだと心を入れ替えてプレーするようにしました」。中島はさらなる成長を目指すため、前年のゴルフを自己分析したのだった。
これまでツアー2戦に出場し、いずれも予選を通過。この大会がツアー3戦目だ。2017年は日本ゴルフツアー選手権とHEIWA・PGM選手権で初日首位スタートを切り、HEIWA・PGM選手権での12位タイが自己ベストフィニッシュ。
「今日はショット、パットがうまく噛み合いました。ラフに捕まったホールでは、パーを拾いやすいピン位置だったり、アプローチが悪かった時にはパットが入ってくれたりしました。初日に飛び出すのが今回で3回目。(過去2回は周囲の)評判が良かったので、目立って行きたい。試合に出場している限りは『ああいう奴がいたな』と(成績で)目立ちたいです。週末は家族が(コースに)来るので、決勝ラウンドに残りたいのが最初の目標。あとは、失うものが何もないので、楽しんで、思い切り攻めて行きたい」と中島。
シード権をしっかり取れる選手に、1年間安定して戦える選手になりたい!2018年の目標を達成するチャンスを「得意の初日」に引き寄せたのは事実。残り3日間が勝負だ。
第2ラウンド

大会連覇で最終グリーンのギャラリーを喜ばせたいと宮里2位タイ
大会1日目の天候は曇り時々雨。気温14.4℃。北の風、風速3.7M/S。一夜明けての同2日目、天候は晴れ。気温21.5℃。風向きは南に変わり、風速は4.6M/Sと強まった。前日とは正反対の風向きに加え、強まった風はグリーンを硬くし、スピードを速める一方だった。
初日はアンダーパースコアをマークした選手は144人中、36人。しかし、2日目が終わってアンダーパースコアをキープしたのは、17人と激減したほどコースコンディションは厳しさを増していた。
第2ラウンドを終えて、首位に立ったのは、初日の8アンダーという貯金を2つ減らして我慢のゴルフを続けたオーストラリア出身のブレンダン・ジョーンズ。2打差の2位には谷口徹、稲森佑貴、姜庚男(カンキョンナム)、Y・E・ヤン、宮里優作、永野竜太郎と6名が続いている。首位と3打差に8名がひしめく混戦で、いよいよムービングサタデーを迎えることになる。
大会連覇を狙う宮里優作は、初日5バーディー・1ボギー68で首位と4打差の4位タイに着けていた。2日めはボギーが先行し、前半を2オーバーでターン。順位を下げた。「傾斜がない所なのに躓きました」と宮里は前半9ホールをそう評した。ドライバーショットが安定せず、ラフからショットが続いた。それがスイングを乱す要因になっていた。芝草の中からボールを打ち出すために、ダウンスイングでクラブヘッドを通常よりも鋭角的に入れなければならない。自然にトップスイングを高くして打ち込んでいたのだ。
そのことに気づいた宮里はラウンド途中にスイングを修正。後半11、12番ホールでの2連続バーディーにつなげ、残りホールはすべてパーにまとめてフィニッシュ。2バーディー・2ボギー72。通算4アンダー2位タイに浮上し、首位との差を2打に縮められた。決勝ラウンドを迎え、「ティーショット次第ですね。フェアウエイを捕らえないと話にならない。ルーティーンとスイングリズム、イメージの出し方を徹底して行っていくだけです」と宮里。
囲み取材後、公開インタビューに出演した宮里にギャラリーから声が掛かった。
「藍ちゃんは来ないの?」。苦笑いを一瞬浮かべ、「聖志ではダメですか?」と応答し、観客を笑わせた。難しかったこの日のラウンドを解説した後、前年大会を振り返った。
「生まれ故郷での開催だったので、どうしても優勝したかった。しかし、それ以上の大きなプレッシャーを感じましたが、熱い応援のお蔭で実力以上の力を発揮でき、勝つことが出来ました。その点、今年はノンプレッシャー同然かな」。
そう話したものの、冒頭の言葉を思い出した宮里は、ギャリーにリップサービス。
「そうそう、プレッシャーがありました。藍ちゃんをコースに呼ばないといけないので、そのためには優勝ですかね」といって公開インタビュー会場を沸かせた。
大会最終日。大会2連覇達成で最終グリーンのギャラリーを喜ばせてみせる。そうなれば、藍ちゃんも来るかも…知れない。
第3ラウンド

68をマークし首位に立った藤本は、日本タイトル2冠目を狙う
順位が大きく入れ替わるとされる大会3日目の「ムービング・サタデー」。だが、アグレッシブなプレーを展開しようにも、ティーショットがラフに捕まるとパーセーブの攻略ルート探しに専念せざるを得ない。硬く引き締まり、スピードが速まったグリーンコンディションとメジャー大会ならではの厳しいピン位置。決勝ラウンドに駒を進めた60人の選手の中、60台のスコアをマークしたのは5選手に留まった。
その一人、藤本佳則は4バーディー・1ボギー69。通算6アンダーにスコアを伸ばし、クラブハウスリーダーからトーナメントリーダーと化した。
「ショットだけをみてもらったら良いかもしれませんが、自分の中ではスッキリしていないんです」と藤本。過程である「スイング」と結果である「ショット」にギャップがあることを感じながらのラウンドだったと振り返る。
ツアー国内開幕戦で予選通過(31位タイ)しているが、その後、2試合は予選を通過できずにいたのだった。「何でこの位置(単独首位)?ここまで予選落ちが続いているのに…予選を通過できて良かったというくらいのゴルフですよ。(スイングが完成せず)気持ちが入っていない分、自分に期待していないからですかね」
オフにスイング改造に取り組んだ。「新たなスイング動作を取り入れたなら(ショット好不調の)波を小さく抑えられ、悪くなった時に本来のスイングを取り戻しやすくなる」という思いからだったという。しかし、思うような結果を得られずにいた。旧スイングの動作に戻している部分もあれば、ドライバーを前年愛用していたモデルにも戻した。
「(改造スイングを)誰が見ても、どこを変えたの?というくらい。でも、良い方向には向いて行っていると思う。まだ体に染み込んでいない」
まだ未消化な部分があるのだろう。とは言っても、2012年にツアー初優勝を「日本ゴルフツアー選手権」で飾っている藤本が、日本タイトル2冠目奪取のチャンスを引き寄せたのは事実。
「メジャー大会は魅力有りますよ。5年シードはともかく、日本タイトルは選手としてぜひ欲しい」。改造スイングとドライバーをリセットして臨んだ今大会。試行錯誤の中で、思わぬ結果がやって来るのか。
最終ラウンド

苦悩を乗り越えたプラス一勝。谷口のツアー通算20勝目はプレーオフで決めた
イメージと現実。そこにはギャップがあったり、ズレがあったりする。
大会最終日。正午辺りから雨雲が開催コースに押し寄せ、降り出した雨は徐々に強まり、明朝まで降り続ける天気予報だった。しかし、予報は若干外れた。午後過ぎから雨粒がポツリポツリと落ち始め、本降りになったのは午後3時過ぎだった。
ゴルフは決して平等なゲームではないのかも知れない。曇天のうちにホールアウトできる選手もいれば、土砂降りの中でプレーせざるを得ない選手がいる時もあるからだ。
通算6アンダー単独首位に立った藤本佳則。1打差2位で追う谷口徹。さらに1打差の通算4アンダー3位タイ武藤俊憲の3選手による最終日最終組。スタート時間は午前11時40分。1番ホールでともにボギースタートとなり、天気予報よりもひと足早く優勝争いに暗雲が立ち込める。
最終組の3組前で回っていたM・グリフィンが8番ホールで4つめのバーディーを奪い、同組の阿久津未来也もバーディーを9番ホールで奪取し、一時は両選手が通算5アンダーで首位の座を分け合った。最終組は牽制をし合っているようなプレー内容でスコアを伸ばせずにいたのも一因だった。
それでも最終組が10番ホールを終了した時点では通算7アンダーで藤本が首位に返り咲き、谷口は通算5アンダー5位タイに踏み止まっていた。武藤は通算4アンダー10位タイに順位を下げていた。
サンデーバックナイン17番ホール・457ヤードのパー4。藤本はボギーを打ち、パット名手の谷口は5メートルのパーパットをねじ込み、右手拳を握りしめてガッツポーズ。谷口は藤本に1打差と肉薄した。「このパットを入れないと(逆転優勝は)絶対にない。パットのフィリーングは良かったのでショートだけはしない気持ちで打ったら、綺麗に入ってくれた。それで、ひょっとしたら、と思った」と谷口。
残されたホールは最終18番ホール・550ヤードのパー5。谷口の3打めをピン手前5メートルに寄せる。藤本は短いパーパットを残していた。
「出だしはフックラインでもカップ手前はストレートラインにしか見えない。真っ直ぐめに打とう」と自分の感覚を信じて打ったバーディーパットは17番ホール同様にカップに沈んでくれた。再び谷口はガッツポーズ。
通算6アンダー首位に並んだ谷口と藤本による18番ホールでのプレーオフに試合はもつれ込んだのだった。
同1ホール目は、ともにパーセーブ。決着は同2ホール目で着いた。藤本は3オン2パットのパー。谷口は5メートルのバーディーチャンス。「しっかり打てればいい」。そう決断して放ったボールは、カップに消えた。谷口は渾身のガッツポーズを三度取ってみせ、帯同プロキャディーの石塚瑶一さんとハイタッチ!「おめでとうございます」と石塚さんはお祝いの言葉をかけたが、谷口は無言だった。
自身3度めの優勝杯を両手で抱えながらのテレビインタビュー。雨の雫と一緒に涙が頬を伝う。いつまでも止まぬ雨と流れ続ける涙。天命50歳を超えた谷口は、周囲をはばからず泣きながらインタビューに真摯に応え続けた。
最後のツアー優勝からすでに6年の月日が流れていた。ツアー通算19勝を節目の20勝にできない日々。
「止めたほうが楽かなと思った時もありました。でも、止めるのは簡単だし、止めても何も変わらない。やり続けるしかない」。そう自分に叱咤激励を送り続けて来た6年間だったことを吐露したのだった。
心が折れそうになった時期を乗り越えての日本プロゴルフ選手権3勝達成。弱味を見せない、弱音を吐かない谷口が、実は挫けそうな時期があったのだ。その苦悩を乗り越えての一勝は、これまでの19勝よりも遥かに大きい。久しぶりの優勝杯は、その重さよりも「価値の重さ」を谷口が改めて実感したに違いない。
谷口のイメージには「パット名手」だけでなく、「勝負強い」が加わった。目下、賞金ランキング1位。これは谷口が引き寄せた現実だ。