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第89回(2022年)
堀川未来夢が日本プロ初優勝、ツアー通算3勝目を飾る

通算15アンダーで堀川未来夢が日本プロ初制覇
静岡県三島市にあるグランフィールズカントリークラブで開催された第89回日本プロゴルフ選手権大会は、堀川未来夢(Wave Energy)が追走する選手を逃げ切り、2位片岡尚之(フリー)と3打差、通算15アンダーで日本プロ優勝を飾った。優勝賞金3000万円と、優勝副賞に三島の特産品1年分が贈られた。堀川は2019年日本ゴルフツアー選手権森ビルカップShishido Hills、2021年カシオワールドオープンに続く3勝目。日本プロ優勝で5年シードを獲得した。
第1ラウンド

6バーディー・ボギーフリーで暫定首位スタートした吉田泰基
第1ラウンドは、雷雨接近のため8時58分から2時間30分の中断があり、ホールアウトした中では吉田泰基(東広野GC)が6バーディー、ボギーなしの6アンダー65をマークし、初出場で暫定首位に立った。堀川未来夢(Wave Energy)、池村寛世(ディライトワークス)、ジュビック・パグンサン(フィリピン)、原田大雅(フリー)が1打差で追走している。17組51人が日没のためホールアウトできず、サスペンデッドとなった。
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吉田にとっては「第2の故郷」で、日大のゴルフ部時代を過ごした思い出あるコースでの開催に「出たかった」という喜びが、スコアに結び付いた。
打ち降ろしのスタート10番(498ヤード)でドライバーを握り、残り100ヤードへ。ここから4メートルにつけて幸先いいバーディーを奪った。12番では2メートルを入れ、15番では奥のカラーから7ヤードをサンドウエッジでチップイン。17番では7メートルを放り込んだ。
一番得意というドライバーが好調。「ティーショットでフェアウエーに行く回数が多くてチャンスが多くありました。外したのは4回ぐらい」と振り返るように、刻んだのは2ホール(12、8番)だけでドライバーで攻めた。折り返した1番パー5では残り202ヤードの第2打を5番アイアンで2オンのバーディー。その後はパーを重ねる展開になったが。最終9番で左4メートルにつけてバーディーで締めた。
日大時代は三島にあるゴルフ部で4年間を過ごした。今回のコースはキャディーのアルバイトを週末に日当1万円でやっていた。多いときは週2回ラウンドし、合宿も行っていた。「このコースの景色には慣れています。三島は第2の実家みたいなところなのです」という。
同じ日大の先輩で、1打差2位につけた堀川未来夢、星野陸也を尊敬し「2人ともめちゃめちゃいい人」という。特に堀川とは「サウナ仲間」でもある。「同じ宿に泊まる時はサウナ付きで、水風呂の温度を(ホテルに)確認したりして」と笑う。サウナでの会話も、いい勉強になっている。「逃げ球を持った方が強いよと。(トラブルを避けるような)低い球を打つとか、自分ではやっていなかったので」と、先輩とのサウナ時間を有意義に過ごしている。
「ここでチャンスを生かしてステップアップしたい」という思いは強い。「グリーンの傾斜とかは頭に入っているので、行っちゃいけない所に行かないように心がけています。学生時代とは違ってラフも長いし、刻むところは刻んでいきたい。今日と同じように行ければいいんですけどね。ノーボギーで回ることが目標です」と、第2ラウンド以降を見据えている。
第2ラウンド

自身初の9ホール29を達成! 首位・安本は一打一打を大切に守る
第2ラウンドは、難コースで全体のスコアが伸び悩み、大混戦の展開になった。前日のサスペンデッドの残りホールを行った後に第2ラウンドをスタート。安本大祐(テラモト)が後半のアウトで1イーグル、5バーディーの7アンダー29をマークし、この日66で通算7アンダーの首位に浮上した。出水田大二郎(TOSS)、堀川未来夢(Wave Energy)、嘉数光倫(エナジック)も7アンダーと首位に4人が並んだ。1打差に前日首位の吉田泰基(東広野GC)がつけ、2打差で19歳の久常涼(SBSホールディングス)ら4人が追走している。通算1オーバー52位タイまでの64人が決勝ラウンドに進んだ。
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175センチ、50キロの細身、安本大祐が後半アウトを7アンダー29で回る好プレーで首位に浮上した。
2アンダーでインからスタートし、2オーバーして貯金がなくなった。「1番のパー5は絶対にとらないと予選落ちするかもしれない」と思った。第1打をフェアウエーに置き、第2打残り202ヤードを6番アイアンで右6メートルに2オン。イーグルを決めた。これで乗った。2、3番で3メートルを入れる連続バーディー。381ヤードの6番ではドライバーで残り30ヤードまで飛ばし「入りかけた」と5センチほどを指で示すバーディー。8番では奥1メートルを入れた。
ここまでアウト6アンダー。最終9番、フェアウエーから残り164ヤードの第2打で「20台は出したことがないスコアなんで、やっぱり意識して…。余計なこと考えて、セカンドで固くなってダフってしまった」と、2段グリーンの下の段へ。上の段のピンまで「16、17ヤードありました」という。「こんなのが入らないと20台なんて出ないよな」と思いながら、何も考えずに打ったら見事カップイン。初の20台、29を達成した。優勝争いに加わるビッグスコアに「メジャーの舞台で出せたのはすごく大きい」と自賛した。
日本プロでの9ホール29は最少スコアで、記録に残る1991年尾崎将司(プレステージ、FRイン)以降では95年佐々木久行(夏泊、FRイン)、2006年中田範彦(谷汲、1Rイン)、2013年金亨成(総武、FRアウト)、2015年野仲茂 (太平洋江南、1Rアウト)、同年武藤俊憲(同、1Rイン)がマークしている。
今週月曜日に東北福祉大の先輩で「尊敬する」池田勇太と食事をした。「コロナが気になる方なので『2人だけでお願いします』って、久しぶりに2人で話せました」という。「最近沈みがちだから、もう少しゴルフを楽しみなさい、と。運が逃げるから下を向いてゴルフをするんじゃないと言われました。お客さんが嫌な気持ちにならないようにやれと。その言いつけだけは守ってやりたいです」。その心がけが生んだスコアかもしれない。
いつも話題になるのがその細身。食べても太らない?「変わらない。食べても無理かなと。というか、食欲が皆さんとは違って、ないんです。食べることのストレスが、ダイエットする方のストレスと同じ感じ」と、笑う。デメリットは「冬はめちゃくちゃ寒い。脂肪もないので筋肉もつかない。トレーニングをしても手ごたえがないんです。ケガをしないように心がけています」と、悩みも多いそうだ。
「きょうは木に当たってフェアウエーに出て来たり、運もあった。でも、いいことばかり続くわけじゃない。苦しい時間もくると思うし、それを耐えれば思いがけないラッキーも来ると思うので。リーダーズボードも一切見ず、一打一打に集中して、楽しく残り2日間やりたい」。下を向かずに運を引き寄せたい。
第3ラウンド

単独首位の堀川、目標スコアを設定し日本タイトルに王手をかける
堀川未来夢が8バーディー、1ボギーの64で混戦を抜け出し、通算14アンダーにスコアを伸ばして首位に立ち、日本プロタイトルに王手をかけた。3打差で嘉数光倫(エナジック)が追走する。5打差3位グループには池村寛世(ディライトワークス)、吉田泰基(東広野GC)、安本大祐(テラモト)がつけている。
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自分でこう言えることは、プロといえどもそうあることではない。「15番(ボギー)のセカンドが唯一のミスショット。他は全てマネジメント、事の運び方が上手にできました」という堀川の顔は、自信たっぷりという表現が当てはまるだろう。
特に挙げるのがパッティング。つい最近までイップス的な症状に悩んでいた。5週間のオフの間に矢野東のアドバイスがあり、その他にも「7月初めに丸山茂樹さんと回る機会があって、パッティングの向きとかを教えてもらった」という。それを自分なりに「はめ込みながら」今のパッティングスタイルになった。「自分で聞きたいことがあった時は、質問を投げかけて聞くようにしています」。聞く耳を持っている結果だ。
「だから、入っても入らなくても、ストレスがないんです」と、多くの選手が苦しんでいる、アンジュレーションの強い、広いグリーン上で、むしろ楽しんでいるように見える。
この日は7アンダーの首位グループに4人がひしめく混戦の中でスタートした。1番で1.5メートルを入れ、2番では右に切られたピンの狭い右のスペースに落として2.5メートルにつけた連続バーディーで抜け出した。3番では左バンカーの奥のラフから7メートルと寄せきれなかったが、それを決めてパーでしのいだ。その後も2バーディーを重ねる。
前の組をいく嘉数がバーディー量産で一時は首位を奪われたが「行っているのは知っていました」という。嘉数がボギーで11アンダーに落ちて進撃が止まった後からが、堀川の時間になった。13番でカラーから5メートルのバーディーを決めて12アンダーとして、嘉数を抜き去る。14番では10メートルほどのロングパットを決めた。唯一のミスをした15番で落としたが、すぐに16番で1メートルにつけ、17番で7メートルを入れるなど、ギアの入れどころが絶妙だった。
2位嘉数に3打差は、難コースではセーフティーリードではないのは確かだ。ただ、経験値では上回っている。2019年日本ツアー選手権で日本タイトルは取っている。「あの時は初優勝もかかっていたのでその重圧もあった。その前に2回こけていたんで、優勝してほっと一安心しました。今はそんなプレッシャーはないですね」という。最終日、目標スコアを設定しているという。「3アンダーぐらい。感情の起伏をつけたくないんで、最終日とかは気にせず、平均点を考えてやりたい」。今の堀川には余裕が漂っている。
最終ラウンド

堀川未来夢が逃げ切って第89代日本プロチャンピオンに輝く
堀川未来夢(Wave Energy)が通算15アンダーで逃げ切り優勝を果たし、プロ日本一に輝いた。一時1打差に迫られたが後半のチップインバーディーなどで突き放し、前年のカシオワールドオープン以来ツアー通算3勝目、2019年日本ゴルフツアー選手権に続く日本タイトル2冠目となった。3打差2位に片岡尚之(フリー)、4打差3位に吉田泰基(東広野GC)が入った。
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楽には勝たせてくれない。堀川はヒヤリとした思いをたぶん、2回は味わっただろうか。
3打差でスタートしたが、追う嘉数光倫が1、2番連続バーディーで1打差に迫った。3番では、3番ウッドで刻んだショットが右の林に消えた。ピンクのウエアを着た後輩の日大ゴルフ部の現役生が応援に来ており、林の入口でボールをみつけた。距離計で計って、いざ打とうと木の葉などをどけたときに「これ違う」と声を上げた。それからまた捜索。すぐに土手の下で見つかった。9番アイアンで出し、残り105ヤードの第3打を1.5メートルにつけて奇跡的なパーを拾った。嘉数がバーディーパットを外し、このホールでの逆転を許さず、ひと息つくことができた。
5、7番でバーディーを取って抜け出したが、終盤に落とし穴が待っていた。16アンダーで独走態勢に入る。2位に5打差をつけていた14番パー3。「6番か7番か迷って、7番アイアンで打ったら、思いのほか飛んでしまった」と奥のラフへ。ここでも寄せ方を迷ってピン方向にアプローチしたが、転がって下の段のラフまで行ってしまった。再度のアプローチは1メートル強に寄せたが、外してダブルボギー。一気に3打差に縮まった。
ここからが本領を発揮した場面だった。16番で奥のラフにこぼしたが「10ヤードぐらいでした」というアプローチが直接入るチップインバーディーに。何度も右こぶしを握り締めた。勝利を手繰り寄せた1打になった。
勝因を聞かれた。このコースは三島キャンパスにある日大ゴルフ部時代からキャディーをし、合宿もしている。「自分の中では熟知していたコース。ティーショットが難しいので、ドライバーで大丈夫かな、と思って打つのは危険。少しでも危険な匂いがしたらレイアップした。けっこう刻みました」と、この日はドライバーを握ったのは6回。8ホールでティーショットを刻んだ。コースマネジメントと感性を合わせた勝利だった。
「初優勝(日本ゴルフツアー選手権)に比べると、緊張感はそうでもなかった。最低3アンダーの目標を達成できず(70)、そこは悔しい」と、話した。
この日はボールを捜索してくれたように、日大の後輩たちが18ホール、歩いて応援してくれた。大会前に日大ゴルフ部の和田監督と食事をした際に「(日大が)勝ち切れない。方法を教えてくれ」と言われたという。「勝ち切る方法はなかなかないのですが、後輩がずっとついてくれたし、いいところを見せられたかなと思います。ダボを打ってもチップインしたし、あきらめないでやること」と、コーチとして名前を置いているだけに、実技で範を示した形だ。
自身の日大時代には「高校時代からツアーに5試合出て全部ビリの方だった。プロのトーナメントは無理だなとあきらめて普通に就職しようと思った」と大学3年時には就職活動もした。1年間だけプロを目指そうとして、そのまま今に続いている。
今季はパッティングのイップス症状に悩み、この大会前までは最高はASO飯塚チャレンジドゴルフトーナメントの22位、賞金ランキングは44位に沈んでいた。この優勝でランクは7位まで上昇した。
延べ88個の名前が刻まれた日本プロの優勝トロフィー。89人目に名前を刻む。トロフィーとの写真撮影の時にまじまじとながめ「歴代優勝者の中に名前を刻めるのはうれしい。全員入っているんですよね」と、目を輝かせたのが印象的だった。